どんな製品が求められているのか、どうすれば体に負担が少なく作業ができるのか……。
現場の声も聞きつつ、日々模索している製品開発担当者。今回は、女性向けの商品開発のため、
人間工学を応用し人の健康を考えた、支援機器の開発に取り組んでいる宇土博先生に、女性の体のバイオリズムをふまえ、
どんなものが体にフィットするのかお話しを伺いました。

腰部への負荷で骨盤捻挫を起こしやすい女性

ワーク女子力メンバー(以下、MWJ) 先生、本日はお忙しいところをありがとうございます。よろしくお願いいたします。さっそくですが、まず最初にお伺いしたいのが、女性の作業時に腰にかかる負担についてです。骨格、筋力、ホルモンなどの男女の体の違いから、腰痛のなり方にも違いがあるのでしょうか?

宇土 男女の体の仕組みで最も大きな違いのひとつに筋力の差があります。特に背筋力ですね。背筋の最大筋力に対する重量の比が大きいほど腰に影響します。日本人の背筋力の平均は、40代男性で140kg、女性で85kgです。女性は男性の約6割の筋力です。同じ重さの物を持つと、女性は男性の1.6倍の負担がかかります。だから、女性に対して一番重要なのは、荷重を減らさなければならないということです。男性の6割にすることを考えます。まず、この根本的な部分に焦点を当てなければなりません。
 次に、生理の前には女性ホルモンが出てきますが、これは骨盤の関節を緩める作用があります。関節がゆるむと損傷しやすくなります。なかでも一番起こりやすいのが骨盤捻挫です。緩んだときに重いものを持つと捻挫が起きやすくなります。骨盤捻挫は腰痛の原因のひとつです。腰からお尻にかけて痛くなる。女性では骨盤捻挫による腰痛が多い。
 また、生理前は体重が増加しやすく、腰に負荷がかかりやすい。これは、妊娠を準備するプロゲステロンという黄体ホルモンが増加し、受精卵が着床しやすいように、子宮内膜を厚くする栄養や水分を体内に蓄える働きをするためです。むくみを伴って2kgほど体重が増加することがあります。この体重の増加も腰に負荷がかかりやすくなる要因です。女性は大変なんですよ!

MWJ 体重の増加でいうと、一番大きい変化は妊娠・出産だと思います。産前産後に気を付けたほうがよいことはありますか?

宇土 普段から腹筋運動をして体幹筋の予備力をつけておくことが必要です。大事なのは腹筋を鍛えること。素人が背筋を鍛えようとすると腰を痛める可能性があるので、お腹の筋肉を鍛えます。腹筋を訓練すると自然に背筋も訓練されます。
 食事や栄養面からみると、体重の増加予防や減量に炭水化物は減らしたほうがいいですね。たんぱく質はしっかりとりましょう。それから、体内の余分な水分を排出するために、お茶もとるように心がけるといいですね。

MWJ 腰痛になっても病院で治療しない方が多いように感じています。腰痛になっている人の潜在的な数は多いのでしょうか?

宇土 英国の統計をあてはめると、日本では1,300万人くらいと推定されます。従って、潜在需要は増えていると思いますよ。痛み止めや湿布をするなどの対症療法では根本的な解決になりません。その人の仕事や生活環境を聞いてそこから対策を立てる必要があります。

予防だけでなく、腰痛にも効果のあるベルト

豊倉 先生が開発された、腰部保護ベルトの「リリーフ」ですが、これは何がきっかけで開発されたのでしょうか?

宇土 1980年代のことですが、重い郵便物をトラックに載せる作業で腰痛に苦しんでいた配達員の人のための対策で考えたのがはじまりです。重量挙げの選手のベルトにヒントを得て考案しました。
 相撲取りが締めているまわしも同じです。まわしは、骨盤位置に締めてあるでしょう! きっちり巻くと腰が痛くならない。だから、あんなに体重の重い人を持ち上げても腰への負担が少ないんですよ。腰部保護ベルトは、「ラグビーボール理論」に基づいて開発し、腰部負担の軽減効果を実証したものです。

豊倉 「ラグビーボール理論」とは何でしょうか?

宇土 腹腔をラグビーボールに見立て、ベルトによって腹腔を締めると腹圧が上がり、上半身の荷重を腰椎と腹腔で支える形となります。腹圧を高めることにより腰椎への圧力が減ります。これにより、一箇所に集中してしまう負荷を分散させることができるということです。

豊倉 男性用の保護ベルトは、デザインがストレートになっていますが、女性用の「リリーフレディ」は、なぜ湾曲デザインになっているのでしょうか?

宇土 女性は腰がくびれているからベルトがずれ上がりやすい。だから、女性の体形に合わせて、前下がりになるように湾曲にしました。前下がりにするとベルトがズレません。
 大切なのは骨盤位置に正しく装着することです。これにより骨盤を保護するので、男性よりも女性にとって必須のアイテムです。当然、生理時や出産後にもこのベルトをして仕事をしたほうがいいですね。最初にもお話しした、腰痛のひとつである骨盤捻挫を防ぎます。また、予防だけでなく、腰痛のときにこのベルトをきちんとしめることで自然に軽減していきます。

1979年 広島大学医学部大学院卒業。職業性頸肩腕障害の研究で医学博士。
1994年 カンザス州立大学・経営工学科人間工学教室に留学、同大学客員講師就任。
2000年 広島文教女子大教授就任、産業保健、福祉工学専攻。
2001年 広島大学医学部臨床教授。
2011年 日本新経絡医学会長。

友和クリニック
職業病外来で腰痛・頸肩腕障害、アスベスト塵肺、発達障害などの治療に携わる。
介護施設の腰痛予防やみかん農家の腱鞘炎予防などの人間工学的対策を指導。

有限会社ウド・エルゴ研究所
産業保健対策として、腱鞘炎予防のDr.Gripボールペン、
腰痛予防ベルト、VDT用アームレストなど多くの開発に携わる。